フィナステリドの服用を始めたばかりの頃は、誰もが高いモチベーションを持っています。しかし、治療が長期にわたるにつれ、飲み忘れという小さな失敗は、誰にでも起こり得るものです。問題は、その「たった一回の飲み忘れ」が、単にその日の効果を失うだけでなく、私たちの心に深刻なダメージを与え、やがて治療そのものを中断させてしまう危険な「罠」となり得ることです。飲み忘れに気づいた時、多くの真面目な人ほど、「ああ、またやってしまった」「自分はなんて意志が弱いんだ」と、強い自己嫌悪に陥りがちです。この罪悪感は、治療へのモチベーションをじわじわと蝕んでいきます。一度の失敗が、次の日の服用をためらわせ、「もう一日くらい良いか」という甘えを生み出す。そして、飲み忘れが二日、三日と続くと、「もうここまで来たら意味がない」「自分には続ける資格がない」と、完全に治療を諦めてしまう。これが、飲み忘れが引き起こす、最も恐ろしい心理的な負のスパイラルです。この罠に陥らないために、私たちは考え方を少し変える必要があります。それは、「完璧主義を捨てる」ということです。AGA治療は、100点満点を目指す試験ではありません。多少の飲み忘れがあったとしても、それまでの努力がすべてゼロになるわけではないのです。大切なのは、100点を取ることではなく、平均して80点、70点でも良いから、とにかく「継続する」ことです。マラソンで、一度つまずいて転んだからといって、リタイアする選手はいません。すぐに立ち上がり、また走り始めるはずです。フィナステリド治療も同じです。飲み忘れは、治療の失敗ではありません。それは、単なる「つまずき」です。つまずいた自分を責めるのではなく、「よし、ここからまた頑張ろう」と、気持ちを切り替えて、次の日からまた服用を再開すること。そのしなやかで前向きな姿勢こそが、長期にわたる治療を成功させる最大の鍵となります。飲み忘れは、誰にでもあります。自分を責めすぎず、長い目で、大らかな気持ちで治療と向き合っていきましょう。